空の花
「アハハッ、あにぃ、はやく来てよ!」
 騒がしい雑踏の中、前を行くのは浴衣を着たボーイッシュな少女――妹の衛だった。
「待ってくれよ。さっきまでバイトだったんだからさ」
「だーって、待ちきれないんだもん!やっとあにぃと縁日にいけるんだから!」
「ああ、そうだな…」
 自然にうなずく。
 そう、今日は、今月いっぱい、週末だけ行なわれる縁日に来ているのだ。

「たこ焼きくださ〜い」
「あいよ、たこ焼き一丁!」
 衛の注文に、屋台の中で禿頭のおじさんが景気よく返事する。
「マヨネーズはいるかい?」
「うん!」
「はは、元気がいいなボウズ」
「うっ…」
 衛の顔が引きつる。
「…おじさん、ボク男の子に見える?」
「え? もしかして女の子?」
「ええ、そうなんです」
 絶句している衛の代わりに答える。
「あっちゃー、そりゃ悪かったな。あんまり元気だからよ」
 決まりが悪そうに頭を掻くおじさん。
「うう、やっぱりボク、男の子に見えるんだよね…」
「嬢ちゃん、わりぃ!お詫びに半額…いや、百円にまけてやる!」
「そんな悪いですよ」
「いいよおじさん、ボクそんなに気にしてないし」
「いーや、ただに許してもらうなんざ男がすたるってもんよ」
「はあ、じゃあ百円で…」
 衛は元の定価の五百円を持ってるから、代わりに自分で百円玉を出す。
 百円玉を受け取り、たこ焼きが入ったパックを衛に手渡すおじさんは、衛とこっちを交互に見た。
「な、なに、おじさん?」
「いやあ、確かに兄ちゃんと比べてみると女の子に見えるぜ」
「え?」
「うん、なんか兄妹っていうよりも、似合いのお二人って感じだな」
「え、ええええええ!?」
「い、行こうか衛…」
 なんとなくその場から逃げ出したくなって、俺は衛の手をひいて歩き出した。
「あ、あにぃ?」
 驚いた声を衛があげるが、構わず歩く。
 しばらくして、衛が恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「ね、ねえあにぃ…」
「ん?」
「さっきのたこ焼き屋さん、似合いのお二人だって…」
「あ、ああ…」
「………」
「………」
「…別の人から見ても、そう見えるのかな…」
「え?」
 よく聞こえなかった。
「なんか言ったか衛?」
「う、ううん、なんでもない!」

「待っててねあにぃ、絶対あの人形とって見せるから」
「衛が欲しいんだろ?」
「それはそうだけど…でも頑張るよ」
 おもちゃの鉄砲を構えながら衛が意気込む。場所は射的の出店、狙ってるのは…見たことはあるような気もするが、よく覚えていない、そんな人形だった。玉入れの皿には、コルクの弾が5個入っていた。
「この前友達に教えてもらったんだ。こうして、鉄砲の筒と同じ方向に視線を合わせるんだって」
 まるでハンター・・というか歩兵のように鉄砲を構える衛。なかなか様になってるが…
 ポン!…スカッ
「あ、外れた!」
 残念そうに眉をひそめる。
「もう1回!」
 ポン!…スカッ
「もう1回!」
 スカッ
「うう、当たれ!」
 気負いも空しく、4発目も外れた。
「えー、どうして当たらないのかな」
「リラックスしたらどうだ? 焦ると当たらないかもしれないぞ」
「でも、弾は後1個しかないんだよ」
「金はまだあるから大丈夫だぞ」
「でも、あにぃのお金だし…どうせなら1回で当てたいんだ」
「どうして?」
「な、なんとなく…」
 まあ、そういうこともあるだろな。俺も、意味もなく意地張ったりするから、衛もそうなんだろう。
 しかし、このままじゃ当たらないな。どうすれば…
 あ、そうだ。
「じゃあ、一緒に狙うか」
「え?」
「ほら、構えて構えて」
「うん…えっ!?」
 俺は、鉄砲を構えている衛を、後ろから支えた。
「あ、あにぃ?」
「2人で狙えば精度も2倍だと思う。やってみよう」
「で、でも…」
「大丈夫だ。俺がついてる」
 とは言ったものの、少し自信なし。
 でもま、まぐれ当たりの可能性もあるしな。
「じゃあ構えて」
「う、うん」
 銃口が目標を射抜く角度に向いた。しかし本物じゃあるまいし、まっすぐ飛ぶわけがない。少し上向きにしておく。
「よし、引き金をひいて」
「うん…!」
 軽やかな破裂音とともに、コルク弾が飛び出す。
 しかし、その奇跡は人形を少しかする程度に終わった。
 かすったショックで揺れる人形を見ながら、俺はつぶやいた。
「あーあ、失敗か」
「うん、残念だったね…ちょっと待ってあにぃ!」
「え?」
 見ると、人形のゆれは大きくなっていった。右へ左へ、前に後ろに。
 そして、
「やった!」
 衛が歓声を上げる。人形はついに倒れたのだ。

 花火会場に向かう川の土手で、俺は鼻歌を歌う衛に聞いた。
「なあ、そんなに欲しかったのか?その人形」
「んーと…ホント言うと、そんなに欲しくなかったよ」
「じゃあなんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「決まってるよ」
「決まってる?」
「うん…」
 その時、1本の光が空に伸びていった。
「あにぃと一緒に、取ったからだよ」
 そして、一輪の花が夜空に咲いた。
"Fire at Will!"closed.

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