輝け! 第1回ブルマ王選手権!
「整列!」
 鋭い兄の叫びに彼女たちは背筋を正した。
 ある駅前公園。学校帰りの夕刻といっても差し支えない時間帯。
 ジャージ姿の兄は周囲の視線を気合いではねのけ、声を張り上げた。
「番号!」
「1!」
「2!」
「3!」
「違う!」
 ポカン。と、咲耶の頭にウレタン製のバットが振り下ろされた。
「痛…くないけどー何するのよお兄様」
「馬鹿者!3は衛の数字ではないか」
「でも、まもちゃん、いないよ」
 花穂が抗弁する。
「当たり前だ。今日の主役は奴だぞ。主賓に祝いの種を教えてたまるか」
「やっぱりまもチャマのお祝いなのデスカ」
「何だと思ったんだ」
 雛子、千影、亞里亞を除く8人が口を揃える。
「仮装?」
 その指は、各々が着た服を指していた。
 体操服であった。
 下はブルマであった。
 靴下は白だった。
 全国1万人の兄(マイナスまも単属性)が泣いて喜びそうな光景だった。
「何が仮装か。それは神聖なる尼崎王国の制服だぞ」
「尼崎って誰ですの?」
「偉大なる先人さ。いや、そんな事は今はどうでもいい。今日はまもの誕生日だ!」
 握りこぶしを震わせる兄。
「くすん…兄や…恐い…」
「四葉っ」
 ぱちん、と指を鳴らす。四葉は頷き、
「亞里亞ちゃん、キャンデーデスヨ」
「…わぁい」
「よっし。それでは今一度、番号!」
「1!」
「2!」
「4!」
 略。

 で。
「本日18日は衛の誕生日。俺はかねてより構想していた計画を実行したい」
「計画、ですの?」
「それが、ブルマに関係が?」
「大ありだ。お前たち、衛が世間でどういった認識をされているか、知っているか?」
 黙。暫らくして千影がぼそりと
「スポーツ妹」
「その通りだ。奴は、俺と一緒にいたいためにと、自身が女である事を捨てている。いや、嬉しい事は嬉しいのだが…」
 兄は拳で机を殴った。
「それではいかんのだよ、諸君!」
「どっから出したの机!?」
「考証するな! ともかく、今の状態が続けば、嫁の貰い手がない事は必至」
 タバコチョコを咥えて、続ける。
「故に、衛に女の子らしくなってほしいというのが、今回の命令である。命令はただ一つオーダーイズオンリーワン見衛必女サーチ・アンド・ガーリッシュ以上オーバー
「認識した、我がアニキ…って! いくらアニキでも横暴じゃない?」
「何言ってるのよ、リン。お兄さまの言う事が間違ってる訳ないじゃない」
「…そう……だよ……鈴くん………」
「兄君さまの仰る事は当然といえますわ。ええ勿論」
「何が疑問なの鈴お姉ちゃん」
「ですの?」
 5人の顔にはある公式が浮かんでいた。
 「兄が、衛の嫁の貰い手がいない、と言った」
 →
 「兄は衛を恋愛対象と見ていない」
 →
 「作戦が成功すれば、それは確実」
 →
 「ライバルが一人減る!」
「ひ、卑怯くさいなぁ…それはともかく、まもを女の子らしくするのと、アタシたちが体操服なのは、どんな関係が?」
「体育会系キャラのフォーマルスタイルと言ったらブルマだろ。これが一気に現れたら、如何に自分が異常な立ち位置にいたのか、良く解るに違いない。明日の奴はスパッツなしに違いない」
「まあ、いいけどね」
 頭を掻く鈴凛は、突然はっとした。
「ち、ちょい待ってアニキ。今何て?」
「ん?だから、如何に異常な」
「その後! まもがどんな格好だって?」
「だからスパッツ。……?」
「……………………………」
「…・…………………………………………」
 黙。
「……ブルマ関係な」
「あ、みんな?」
 公園の外に視線を投げると、制服姿の衛がいた。
「あれ、どうして皆体操服なの? 寒くない?」
「あ、えーと」
 鈴凛が答えに迷っていると、兄が声を上げた。
「遅いぞ衛! せっかくお前のために待っていたというのに」
(アニキ、まさかマジでやるつもり!?)
 鈴凛の顔に緊張が走る。
「あにぃ?」
「今日はお前の誕生日だろう。スポーツ好きなお前に合わせて、こんな格好をしているんだ」
(え?)
「あ。そっか。すっかり忘れてたよ」
(え?)
「だからってそんな格好しなくてもいいのに。あにぃはいいけど、あねぇたちは寒いでしょ」
「あ、え? あ、う、うん」
「年に一度の誕生日だからな。趣味に合わせるくらいはするさ」
「やだなぁ。ボクはスポーツが好きだけど、体操服が好きなわけじゃないよ」
(れ? 作戦失敗?)
「それもそうか、ははは」
(アニキ認めてるし!?)
「あー、でも御免。ボク誕生日忘れてたから、パーティーとかの用意してないや」
「大丈夫。俺が母さんに連絡しておいたから。第一母さんは覚えてたぞ」
(えっ!? 何それ!?)
「なぁんだ、母さんも教えてくれれば良かったのに」
「まさか自分の誕生日を忘れてるとは思わなかったんだろ。じゃあ、行くか。暗くなってきたし」
「はい、お兄ちゃん」
「は〜い」
「早く行きましょう。このままじゃやっぱり寒いわ」
「ねぇねぇ、今からパーティーするんでしょ? ヒナ、楽しみ♪」
「ヒメ、早く行って母様の手伝いをしないと、ですの」
「…………」
「私もお手伝いをしないと。やはり料理は大和撫子の基本ですわ」
「今日はまもチャマのバースディをチェキデス!」
「亞里亞・・・・・・はやくお菓子食べたい……」
 上着を羽織り、兄に付いていく姉妹を見ながら、鈴凛は鞠絵に言った。
「ねぇ、鞠絵」
「はい?」
「……さっきのって……さ」
「はい」
「………茶番?」
 妹は黙して語らなかった。
"Meaningless"closed.

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