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Doll on my thigh
「お父さま、いってきます」 「いって…ふみゅう」 「水葉、ちゃんと目ぇ覚ましなさいよ」 「いってきます、父さん」 「わっ、わっ、ハンカチ忘れた!」 「行ってくるで〜」 「今日も、血飛沫が映えそうな天気ですわね」 「………」 いつもの風景、いつもの少女たち。 さすがに2週間も経てば1ヶ月強の非日常からの変化も馴れるというものだ。 「パーパ、いてきます」 ぺこり、と頭を下げる末娘に頷く。 「おう、いってこい」 「うんっ」 くるりと方向転換し、姉を追いかけるカーチャに手をふる。 ドアが閉まり、静寂に満ち、 「…さ、て、と」 いろいろと大変だな、今日は。 先日の雑然とした雰囲気と違い、駅前は普通の賑わいだった。 まあ、俺にとって幸運だったのは、今日の講義が一つだけで、しかも午前中で終わりってことだった。 なわけで、午後一だっつーに、俺はデパートのファンシーコーナーを練り歩いていた。 ま、2ヶ月前に比べてばそれなりに品揃えも違ってきているし、第一渡す相手の趣味が違う。 「何がいいのかねぇ」 「何がいいのかな」 『…ん?』 突然の声に、俺は横を向いた。 そこには、私服の男がいた。年は俺と変わらないだろう。こんな時間帯にこんな場所にいるってことは、こいつも学生か? 「あ、どうも」 「あ、いえ」 無難な言葉を交わし、俺たちは目の前のぬいぐるみに視線を戻した。 (ぬいぐるみは華苑の領分だしな…) 「ぬいぐるみはゆんちゃんの領分だしな…」 ん? 「は?」 「え?」 また互いを見る俺と男。 「あー…」 「ええと…」 ファンシーコーナーで、あいまいな呻きを口にする男二人。 どう考えてもマトモな光景ではない。 「い、いや、僕、誕生日プレゼント探しにきたんですよ」 聞いてもいないのに言ってくる男。 「へえ、奇遇だな。俺もだ」 「あ、そうなんですか。誰にですか?」 「……娘」 「え? 娘って、子供ですか?」 「ああ」 「……。あ、ぼ、僕はその、女子寮に勤務してるんですけど、そこの生徒が今日誕生日なんですよ」 女子寮に勤務? 何てうらやましいヤツだ。 …まあ、俺も似たようなものかもしれんがな。 「こっちも今日なんだ、誕生日」 「そうなんですか。偶然ですね」 「ああ」 頷き、そして男と同時に口を開く。 「動物好きで日露ハーフの女の子にはどんなプレゼントがいいと思う?」 「花が好きで女の子らしい中学生にはどんなプレゼントがいいと思いますか?」 思った。 そんなん自分で考えろ。 …多分、やつも同じことを思っただろう。 「カーチャ、誕生日おめでと〜!」 パンパパンッ! と軽快なクラッカーがリビングに響く。 「あ、アリガト、みんな」 頬を赤くしながら、カーチャが微笑む。 「めっちゃ可愛ぇ〜! ぎゅぅしたる!」 酔ってるのか天然なのか、繭が妹に抱きつく。 会って半年になるが、よくわからんやつだ。 「カーチャさん、私からはこれを…」 香澄が渡したのは、占いの結果を書いた紙だった。 「今日は人生最良の日、ですよ」 「私と〜、音葉からはこれですぅ」 そういって手渡したのは… 「私は別に用意してあるわよ! 大体何よ、ダイノブレスのプテラのカバーってのは!」 「え〜? だってカーチャ、イエローがすきっていってたよ」 「私からはこれだ」 白い包みに入ったものは――まあ、大きさと形からわかるな。 「私のものではない。断じて昔からの友人ではない。――大事にしてやってくれ」 「ボクと涼歌ちゃんからは、『七転堂』のドーナツ詰め合わせね」 「この穴が、銃創のようで気に入りました」 だからやめろって。 「影利、お前は?」 「私は料理担当だ。そのうえプレゼントまで要求するのか?」 相変わらずの口調だな。 「カーチャ、特製のボルシチがある。熱いうちに、早めに食べろ」 「俺からはこれなんだけど…」 結局いいものは見つからず、本屋で買った児童書を差し出す。 いくらカーチャが日露ハーフだといっても、あのメガネ少年でもなければ、そのパクリでもないが。 「パーパ、アリガト」 「ごめんな。もうちょっと余裕見て買っておきゃよかったな」 「そうよ。当日に買うなんて、今日の今日まで忘れてたんじゃないの?」 「まあまあ音葉さん。お父様も悪気があって忘れてたわけじゃありませんよ」 「忘れてねー!」 ロングストレート二人に叫び、カーチャに向き直る。 「もし気に入らなかったら言ってくれ。今度の休みに一緒に買いに行ってもいいしさ」 と、カーチャは首を横に振って、 「パーパからのプレゼント、とってもウシレイ」 「そうか。ありがとう。あと、嬉しい、だ」 「うれしい」 にっこりと微笑むカーチャ。 「うん。――なんかして欲しいこと、あったら言ってくれよ。なんでもやってやるから」 そういうとカーチャは俺の手を引いて、リビングのソファに俺を座らせた。 「か、カーチャ?」 そしてカーチャは、俺のももの上に座り、背中を俺の胸に預けた。 「…これでいいのか?」 「うん」 こちらを見上げ、カーチャは頬を摺り寄せてきた。 ――ま、たまにはこういうのもいいか。 "Doll on my thigh"closed.
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