それゆえに
 お兄様は鈍い。
 もうずっとずっと昔から、私がお兄様を本当に愛していることを口にしているのに、いまだに本気にしてくれない。私の気持ちに気付いてくれない。

 お兄様は鋭い。
 私が悩んでいると、すぐに『どうしたの?』って言ってくれる。友達を喧嘩したとき、ついつい服を買いすぎてピンチになったとき、どうしようもなく不安になったとき、お兄様だけが気付いてくれる。

 お兄様はかっこ悪い。
 子供みたいにはしゃいで遊んでいるし、かと思えばいい年してラブレターの一つで動揺する。つまらないことでドジをして、それでもニコニコ笑ってる。

 お兄様はかっこいい。  私が困ったときは、すぐに助けてくれる。子供のときからいつもそうで、私はお兄様が助けてくれるのをずっと待ってる。そして、お兄様は助けてくれる。


「ねえ、お兄様」
「ん?」
「好きよ」
「僕も、咲耶が好きだよ」
 いつもの会話、繰り返す会話。咲耶は嘆息して、兄に顔を近づけた。
「お兄様、私の言うこと本気にしてないでしょ」
「そんなことないよ」
「私は、お兄様が世界で一番好きなの。他の誰よりも」
 兄は苦笑を浮かべた。
 ほら、いつもそうやって、「咲耶は困った子だな」って顔で私を見る。
 すると私は頬を膨らませて、結局はうやむやになってしまう。
「ねえ、お兄様は、私のことをどう思ってるの?」
「決まってるだろ? 可愛い妹だよ。世界でたった一人のね」
 そうなんだ。決まってるんだ。じゃあ私の努力は徒労ってこと?
「そんなことは聞きたくないの」
 すると、兄はまた笑みを浮かべた。困った笑み。
 そんな顔は、見たくない。
 咲耶が顔を伏せると、兄は肩をすくめた。
「じゃあ、咲耶は僕に、どういってほしいの?」
「決まってるわよ。一人の女性として、愛してるって」
「ムリ」
 いつもの、はぐらかしの答えだと思って、咲耶はうらめしそうに、兄を見上げ――
 その真剣な顔に驚いた。
 兄は薄い笑みを浮かべて、口を開いた。
「僕はね、別に咲耶を一人の女性としてみたくない、なんて思わない。大事な人だと思ってる。もしかしたら、咲耶の思いに答えられるような思いを持てるかもしれない。
 でも、それでも僕は咲耶の兄で、咲耶は僕の妹だよ。それは変わらない事実だ。そうして生きてきた過去を否定しようがない。ゆえに僕らはこうして出会えたんだと思う」
 兄は身を乗り出して、咲耶に顔を近づけた。
「だから、僕が咲耶に抱いている感情を告白するとね」
 一拍置き、続ける。
「妹としてでも、一人の女性としてでもない、その両方がない交ぜになった思いで、君を思っている。だから、咲耶は僕にとって、妹でも恋人でもない。どれでもあって、どれでもない存在として、愛してるよ」
 ニコリと笑って顔を引く兄。
 咲耶は無言で、冷めた紅茶に口をつけた。
 もう、どうして、いつもそんなに――

 お兄様は鈍い、鋭い、かっこ悪い、かっこいい。
 私は、そんなお兄様が好き。世界で一番、好き。
 だから私はこう聞くの。

「ねえ、お兄様。私のこと、好き?」
「ああ、好きだよ」
"She is neither sister or lover,Therefore she is."closed.

シスター・プリンセスリンク集『しすぷりんく』企画『妹たちに愛をこめて』寄稿作品
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