Daybreak in after night
 覚醒。
 何かあったわけでもなく、夢見が悪かったわけでもない。
 取るに足らない、真夜中の目覚め。
 彼女はまぶたを開く。
 眠気はなく、むしろ意識に曇りはない。
 再び眠ろうという気もない。
 彼女は身を起こす。
 眼前に広がるは闇。
 光も音も匂いも味も手触りもない。
 自然と、心が苦しくなる。
 恐怖という言葉を、彼女は知らない。
 だが、名も知らない感覚に、彼女は震える。
 確実に、恐怖している。
 ぎゅっと、胸の前で手を握る。
 胸の奥が、落ち着かなくなる。
 意図せず、苦しげな息が漏れる。
 ぎしり、と――どこかで音が鳴った。
 彼女は、普段とは掛け離れた速度で首を回した。
 されど、音の源が何処か、如何なるものか、彼女に知る術はない。
 だから泣く。
 声も無く、涙を流す。
 小鳥のように鳴く。
 泉の様に啼く。
 夜の中、助けを求めて絶叫する。
 呼ぶ。請う。喘ぐ。
 応えない。誰もいない。聞いてくれない。
 断ち、滅ぼし、殺す。
 そんな世界が残酷だ。
 誰もここまで来ることが無い。
 自分は、ここに囚われたままになる。
 誰にも会えない。何も得られない。どこにも行けない。
 ああ、そうだ。今なら、この自分でもわかる。
 ここは、地獄だ――

「亞里亞」

 覚醒。
 何かがあった。夢見も悪かった。
 取るに足る、真夜中の目覚め。
 眼前に誰かがいる。
 否、誰かなどと、あやふやなものではない。
 すべての義務から解放され、すべての権利を剥奪されても、彼のことだけは瞬時に理解する。
 背中が強く抱きしめられる。
「大丈夫? すごく――」
 温かい。彼はとっても、温かい。
「悲しそうな顔で、寝てたから」
 彼が何を言っているのかわからない。
 だって、自分は泣いているから。
 彼がいてくれて、本当に嬉しかった。
 それに、何を言っているのか分からなくても、彼が自分を心配してくれているのはわかっていた。
 とても、とても嬉しかった。
 彼の胸に、顔を埋める。
 温かくて、いい匂い。
 頭を撫でてくれるその手も心地よい。
 かけてくれる言葉もやわらかい。
 ああ、そうだ。今なら、この自分でもわかる。
 ここは、天国だ。

「兄や……」
 
"Daybreak in after night"closed.

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