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Sleeping Heart
「みんな」 お父さんがとつぜん立ち上がったのは、ご飯が終わって、みんながケーキを食べているときだった。 今日は、あたしと音葉の誕生日なの。んっと、この家に来て三回目の誕生日かなぁ? 繭ちゃんたちが着てからは二回目で、帰ってきてからは一回目。 お父さんは、あたしたちと一緒にテーブルを囲んでケーキを食べてた。でも、半分ぐらい残したところで、立ち上がってこう言ったの。 「音葉、水葉」 「なにぃ?」 「何よ」 「今日は本当におめでとう。俺は心から祝福している」 「うん、ありがとぉー」 「な、なによいきなり改まってっ」 音葉はぷいっと顔を背けちゃった。でも、みんなわかってるんだぁ。こうしてるときの音葉は、絶対照れてるの。 お父さんは、うんうん、って頷いて、お話を続けたの。 「みんなも知っての通り、俺は昨夜バイトがあった。夜の十時から朝の八時までの夜勤だ。さらにそのあとは、間髪いれずに大学に行って、朝から夕方まで授業があった。授業が終わったらすぐにパーティーの準備をしてきた」 「そうだな」 うんうん、と頷く華苑と影利。さっすが血の繋がった姉妹だね。って、あたしも半分は血が繋がってるけどね〜。 「それがどうしたの?」 「つまり俺は、昨日の授業後の仮眠以来、寝ていない」 「そうだね〜」 「だから俺は、もうダメだ」 『え?』 みんなの声が重なったとき、お父さんはばたーんと倒れちゃった。 「だから……あとは……頼んだぐー」 ぐーってことはぁ…… 「パーパ、ねちゃった」 「永久に眠らせましょうか?」 「涼歌お姉さま、それはちょっと……」 にっこりとしてる涼歌に香澄が困った顔をしてると、繭ちゃんがお父さんの上にどーん、って乗っかっちゃった。 「とーさま起きてー! しっかりー!」 「寝かせてくれ……」 「ケーキが残ってるよー」 「勝手に食え……」 「らっきー」 繭ちゃんがお父さんが残したケーキを一口で食べちゃうと、綾那がふふっと笑って、 「んー、じゃあ、とりあえずパパを運ぼうか」 「ぷー、いいお湯だったよー」 やっぱりお風呂はいいよねー。あったかくて寝ちゃいそうだもん。 でも、お風呂で寝るのはいけないことだって、お父さん言ってたからやらないの。 なんかね、ずっと昔にお風呂で寝ちゃったら、おぼれそうになっちゃったんだって。 それで、お兄さん――つまり、あたしたちの血の繋がったお父さんにすっごい怒られたんだって。 お風呂で寝て、おぼれたら、死んじゃうかもしれないから。 死んじゃうのはいやだよね。だって、みんなに会えなくなっちゃうもん。 そうしたら、こうして誕生日をお祝いすることも、ぐっすり寝ることもできないもんね。 「みゅ?」 考えながらお部屋にあるいてたら、お父さんの部屋に来ちゃった。 「ん〜……お邪魔しまーす」 そっとドアを開けると、お父さんがベッドの上で寝てた。 ぐー、ってすごいいびき。 「ぐー」 お父さん、毎日タイヘンだから、つかれちゃうのもしょうがないよね。 お父さんのお父さんとお母さんが残したお金があるから大丈夫っていうけど、それでもあたしたちは九人もいるんだもん。 あたしたちのお母さんは、あたしたちを引き取りたいから、お父さんにはお金を上げないし…… 「お父さん……」 あたしはそっと、お父さんの横にいった。 お父さん、いつもおつかれさま。 あたしたち、すごい幸せだよ。 毎日、とっても楽しくて、とっても満足。 でも、お父さんはどうかな? 毎日あたしたちのお世話をして、タイヘンだよね? もしかしたら、あたしたちはいないほうがいいかな? あたしたち、お母さんたちのところに戻った方がいいかな? もしそうなら、あたしだけでも戻ってもいいかな、って時々思うんだ。 あたし一人がいなくなってもかわらないかもしれないけど…… あたしはみんなより、ちょっと遅れてるところがあるから、お父さんに迷惑かけてないかな? お父さん…… 「水葉……」 「みゅッ!?」 あたし、びっくりしちゃった。 お父さん、起きちゃったのかと思ったけど、でも目は閉じてた。 「……ほら、学校行くぞ……」 「……うん」 お父さんの手を握る。その手が、ぎゅっと握り返してくれた。 あたたかいな…… 「ん……」 なんだか、眠くなってきちゃった。 「お父さん……あたし、ねてもいいかな?」 そのとき、お父さんの手が、またあたしの手を握ってくれた。 「うん……ありがとう、お父さん」 そういって、あたしはお父さんのベッドにもぐりこんだ。 「えへへ……」 お父さんのベッドは、大きくて、暖かくて―― (お父さんの、匂いがする……) だから、あたしはお父さんに擦り寄って、つぶやいた。 「おやすみなさい、お父さん……」 "Sleeping Heart"closed.
※postscript あの誓いはなんだったんディスカー! 半年振りのプレプリSSになってしまいました。何だか色々と理由つけて涼歌、香澄、影利、綾那をすっとばしてしまい、申し訳ありませんでした。 今回は水音BDSSということで、水葉メインで書いてみました。音葉は去年書きましたし。 いや、難しいですね、水葉。 ストーリー上、水葉視点で書かざるを得なかったのでこういう形になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか? 水葉は第8話でしかメインを張らなかったので、いまだに口調がわかりません(それ以上にわからないのが繭) 始終眠っているこの娘の一人称で書くというのは、ある意味苦行ですよ… 水葉が何を考えて、主人公の元にいるのか。 普段、ぼけぼけっとした言動でいる彼女ですが、実は結構大人思考を持っているのではないでしょうか。 第8話でのしっかりぶりは、今までの彼女のイメージを覆すものでありましたしね。 いざというときしっかりもの。そんな彼女の一面が上手く描かれていたら、と思います。 Back |