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響く姫
「イルカがいるですの〜イルカがいるですの〜♪」 彼は、親戚の家がある島へ向かうフェリーの上で、それを見た。 フェリーの側面に出っ張ったデッキの上で、大きな黒いリボンをつけた少女が、調子外れの歌――どうやら替え歌らしい――を口ずさんでいる。気まぐれに鳴る汽笛と、掻き分けられる水面の波音に邪魔されることもなく、少女の歌は彼の耳に届いていた。 「そ、そ、そ、そ、そそ、そそ、そそ、そそ、ソーダフラッペ♪」 何でやねん。 胸中でつっこみ、キャビンに向かうべく踵を返す。その視界に、乗客が置いていったのだろうトランクの上に乗り、水面を覗き込んでいる幼児が入ってきた。 「イルカ〜♥」 水族館かテレビでしか見たことのない生き物に興奮している幼児の体が、徐々に前のめりになっていく。 「ちょっ――」 手を伸ばしかけ――瞬間、幼児が手すりの向こうに落ちた。 「ぎ――」 悲鳴を上げかける彼の前を、何かが横切る。 右斜め上――デッキ――から幼児が落ちた方向へ。 (黒くて、紫の――猫――) 一瞬後、手すりの下を覗き込んだ彼の頭上を、音もなく何かが飛び越えた。 「大丈夫ですの?」 「うん、お姉ちゃん!」 彼の背後で、デッキにいた少女が、手すりから落ちた幼児の頭を撫でている。 少女は彼のほうに振り向くと、ささっと右手を振ってにっこり笑った。 「結構鍛えてますの」 「という夢を見たんですの」 「そんなん見てもやらんって」 "Masked Sister Hibiki?"closed.
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